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江國香織「犬とハモニカ」

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犬とハモニカ犬とハモニカ
江國 香織

新潮社 2012-09-28


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 美しく柔らかい言葉で紡がれた短編集。

 一読して文学だな、と思った。滑らかな文章は目からつるつると脳に届いて、ありありとその現場に居合わせるかのように、五感に濃密にうったえかけてくる。研ぎ澄まされと言葉は、ここまで力を持つのかと、震撼する。

 とくにヤマやオチがあるでもなく、日常の一場面を切りとっただけに見えて、この情報量はどうだろう。言葉は情景を、人物の纏う空気すらも、こんなにも描き出すことができるのだ。

 不倫ものが苦手な私には、のうのうと不倫男の甘えくさる「寝室」は気にいらなかったが、残りは、空港の人間模様を生き生きと描写するラブリーな表題作や、鮮烈な菓子の香りたなびく「おそ夏のゆうぐれ」、風変わりな彼女とのアンバランスな距離が印象的な「ピクニック」、現代語で蘇った源氏物語「夕顔」(やっぱヤサ男の源氏は無邪気にして飽きっぽく残酷な、いやなやつ。夕顔は可愛いが可哀想)、同性愛カップルの旅行を扱い非日常的な「アレンテージョ」と、どれも良かった。



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