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母子家庭のさよは、父子家庭の仄田くんとともに学校に忍び込み、そこで大きなねずみに出会う。しゃべる巨大ねずみは、さよが読んだ本「七夜物語」に出てくるグリクレルそのものだった。夜の国の異変を正すため、さよと仄田くんは不思議な世界を冒険することになる。少年少女ファンタジー。
内容や評判を全く知らずに読み始めたので、本書が純然たるファンタジーであることに驚いた。また女の恋か不倫の物語だろうと思っていたのでさ。
そして、現代ではなく昭和五十年代が舞台であることにも驚いた。現代だと小学生でも携帯電話を持っているからなぁ、不思議な世界に迷い込むファンタジーは成立しにくいのかもしれない。
ちょっとたよりない上にお調子者の仄田くんをサポートし、頑張るさよが健気で、とても可愛らしかった。
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下巻はちょっと成長した二人の冒険が続く。戦いのクライマックスはややステレオタイプだし、ラストは寂しげというか蛇足に感じられもしたが、そこまでの数々の冒険はいきいきとしていて良いものだった。
酒井駒子による挿画が素晴らしく、文章を凌駕するものがあった。本書のイメージはまさにこの美しく迫力ある挿画によるところが大きく、文章が負けていると言ったら言い過ぎではあるが、文章から惹起されるイメージは少なかった。
どれだけ素晴らしいって、モノクロなのに色が見えてきそうな芳醇なイメージだ。さよと仄田くんも、一目でどちらかがわかる。このように、第二次性徴前の少年少女の性別を軽やかに描きわけてみせるには、さぞかし卓越した画力が必要だろうと想像する。
絵本のように、絵もメインの一つとしてもっと大きく載せてほしかった気もする。もしそうしたら、このページ数ではおさまらず全5巻くらいになってしまっただろうけれど…。