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川上弘美「なめらかで熱くて甘苦しくて」

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なめらかで熱くて甘苦しくてなめらかで熱くて甘苦しくて
川上 弘美

新潮社 2013-02-28


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 性と生の短編集。

 今、日本で最も熱い女性作家のひとりだと思っている著者の本を、読まないという選択肢はなかった。商品説明に〈セックスと性欲のふしぎを描く〉とあるので、山田詠美「学問」みたいになめらかで苦くて暑苦しかったらどうしよう、と思っていたのだが、読めば杞憂であった。そのもののシーンも出てくるが、局部の淫猥な名称を一切使用することなく、流れゆく水のように透明感ある描写をしているからだ。

 非常に似通いながらも、異なる発達過程をたどる少女たちの物語「aqua」はいまひとつ乗り切れなかったものの、続く「terra」では若い男が友人女性と死んだ彼女を弔う話で、生ける二人の淡々として乾いた道行きがとても好みだった。
「aer」は妊娠出産育児をブログ風とでもいおうか、どこか金原ひとみを思わせる饒舌文体で赤裸々に綴る作品で、こういうものも、ものされるのかと驚いた。女性には大いに頷ける内容であろう。
「ignis」本書で唯一読んでいて飽きてしまった作品。「伊勢物語」のインスパイアらしいのだけど、自分が無学ゆえよくわからず。

 本書で一番うれしいサプライズはラストの「mundus」だろう。家に生息する〈それ〉と暮らす子供の物語であるが、随所に奇妙な逸話が挟み込まれ、とくに〈しゃべる首と三日間語り明かした男の話〉にはぞっとした。皮膚が粟立つどころではなく、ぞくぞくとする背徳感と憑かれた恐怖がそこにはあった。
 こんな、著者による一冊まるごと怪談奇談集を読みたいものだ。小野不由美「鬼談百景」のように。




 

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