![]() | 最果てアーケード 小川 洋子 講談社 2012-06-20 Amazonで詳しく見る |
世界で一番小さなアーケードに住む少女と犬のベベ、少し変わった商品ばかりの商店街と、そこを訪ねる客たちの静かで優しいお話。
本書を読んで、“神は細部に宿る”という、有名な言葉を思い出した。
小説の風景描写は写真のように、何もかも細密に説明すればいいというものではない。
素っ気ない文字情報ながら、それを目がたどり、脳にアクセスすることによって、まるでその光景を目前にしているかのように、脳内にリアルな物事を浮かび上がらせる、その筆力が素晴らしい。これこそが、文学だろう。
連作形式の本書だが、まず気付くのは欠落である。
そもそもアーケードは火事の燃え残りで傷んでおり、ヒロインの少女はその火事で父親を喪っている。商店街を訪れる客も、娘を亡くした父であったり、何かを永遠に失った人々が多い。
最果てアーケードで人々は豊穣たる商品を求め、あるいはいくばくかの銭のために手放し、あるときは商品そのものとなる。
一つの商店街が、不思議なことに一つの生態系にも幻視されてゆくのであった。
p.s.本作品は漫画原作として作られたんだとか。この繊細な文章表現がいかに絵画に置き換えられるのか、コミカライズの方も読んでみたくなった。
最果てアーケード(1) (KCデラックス)
