![]() | カンガルーのマーチ (講談社文庫) 小鶴 講談社 2012-06-15 Amazonで詳しく見る |
父の彼女が妊娠! 衝撃の事実を知った鈴子は、今まであまり仲良くなかった母と暮らすため、東京から東北へ引っ越す。過疎化進む地域で老人たちのマスコットガールにまつりあげられたり、マーチングバンドを始める手伝いをしたり、鈴子の明日はどっちだ?! 物語。
「FKB饗宴」(#)にて、私が以前ご一緒させていただいた作家さんの本。
(語り手である鈴子は標準語だが)方言がふんだんに使われていて、あたたかな印象を受ける。
著者あとがきによると、河北新報に連載された作品で、連載中に3.11を迎えたそうだ。震災のことを書くかどうかは悩ましい問題であり、著者は書かないことを選ぶ。
もしも震災が作中でも起きたことにしたら、ヒロインと母親との葛藤は災害の前に吹き飛んでしまい、全く違った物語になっていたことだろう。
ただ、著者の心は震災を深くふまえており、“起きなかった”世界においても失われる命と生まれくる命を描き、生命が次世代へ受け継がれていくことの大切さを歌い上げる内容となっている。
この一冊は、舞台となった東北に捧げられた命の讃歌なのだと感じた。
(#)FKB話 怪談実話 饗宴 (竹書房恐怖文庫)
