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西尾維新「悲鳴伝」

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たった23秒で、人口は3分の2にまで減少した。そんな未曾有の災害後、13歳の少年・空々空は類い稀な才能を買われて地球撲滅軍に加わるが…。

最初こそは、とっぴな設定から(伊坂幸太郎+舞城王太郎)÷2だと思ったが、共感不能な主役といい、わんさか出てくる人でなし系キャラたちといい、炸裂する異能といい、まごうかたなき西尾維新だった。

一人称の方がいいんじゃないかとは思うが、とりあえず面白かった。原稿用紙1000枚を越える大作ながら、ダレる・飽きるということがなかった。

最初はうんざりしたのだ、また、戯言のいーちゃんみたいなサイコパス(死語)の話かと思って。
戯言シリーズは、人間性を失ったのかそもそも無いのか、情けを持たない青年が人間らしい心を取り戻し、ハッピーエンドに至るまでの物語だった。だからこそ、人間性回復の代償として弟子は本命の彼女の代役として失われなければならなかったし、愛しの彼女は自らを特殊たらしめる属性を放棄しなければならなかった。
そこまでの犠牲の上で人らしくなったいーちゃんよりも、本書の主人公は重症だ。その無気力無関心ぶりは、同じくサイコパス(死語)主人公であった、「刀語」の七花に近いかもしれない。

戯言でデビュー後、一貫してサイコパス系キャラを書き続けてきた著者が「化物語」を放ってきたとき、すぐさま“化けた”と感じた。そこにいたのは、等身大で理解可能で共感しうる主人公だったからだ。

ならば私の失望もわかるだろう、またサイコパス系に戻ってしまったか、と思ったのだ。しかし本書は、後退ではなかった。
心を持たないという異能を持つ空は、持たないからこその、特別かつ唯一の立ち位置を自覚し、特殊性に悩みはするが、ぶれることがない。その姿勢は、人でなしだが美しくすらある。この、悩んでいるところが重要で、このキャラが悩まなかったら、ダークヒーローどころか、単なる冷酷無比な殺人鬼になってしまう。
もしかすると本書は、人の心を回復できなかった+けれど人生は淡々と続いていく、いーちゃんの裏返し的な物語なのかもしれない。

p.s.奇怪なネーミングは著者の魅力の一つではあるが、ラノベを越えて一般エンタメへ行くのなら、あり得ない名前じゃなく、ヤマダサトウとまでは言わないが、もう少しおとなしめな名前の方がいいかも。


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