文学フリマで同人誌が話題となり、改稿を経て刊行された本だという。
私も以前、文フリに参加していたのだけれど、度を越した呼び込みに嫌気がさして足が遠退いていたので、著者のことはこの本を読むまで存じ上げなかった。
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ざっくばらんな印象のタイトルとはうらはらに、セックスレス夫婦の交際前から現在までの軌跡を描いた、重たい本である。
まず、著者…というか、ヒロインの母が典型的な毒親で、日常的に虐待が行われていて酷い。合理的な理由もなく感情的に子を叱りつけるから、娘は常に親の顔色をうかがうように仕立て上げられる。娘の自信をポッキリ折ってしまったのは母親だ。
そんな〈毒親育ち〉の娘は、自尊心を全く持てないことから、のちのち不倫という名の自傷行為に走ってしまう。カラダを餌に、必要とされることへの安堵。常時、そんな状態にあることから生じる心の平穏、すなわち不幸への安住。この部分は、幸福な家庭に育った読者には理解し難いだろう。
本書で疑問に思うのは、(#)夫婦に会話が無いこと。男は寡黙とでもいうのか、夫は仕事のことはかろうじて話題にするものの、性的不和など夫婦間の重要事項から、朝食の用不要などの瑣末なことまで、意思疎通がほとんど無い。不思議なほど二人は話し合わない。妻は夫を立てているので、もしかすると、夫唱婦随で夫が寡黙すぎる家なのか…。
また、先に同職に就いた夫の影響かもしれないが、コミュ障で学校に良い思い出もとくに無いヒロインが、教師を目指す理由もよくわからなかった。
大半がストレスフルな本書であったが、子なし既婚者としては快哉を叫びたくなるラスト。
夫と義両親に子や孫を抱かせてやれぬ負い目、石女として生きることへの世間からの白眼視、連綿と続いてきたDNAを我が代で途切れさせることへの恐怖、そんなものを内包しながら、子どもを持つのが当然(ヒロインの場合、その前段階での躓きだけれど)という社会で、異端として生きていく。ここまでの超個人的な事情が、ラスト日常のストレスを受け、産まない・産めない女たちの想いにつながっていく。人それぞれ事情があるのだから、それでいいのだという、人生讃歌と受け取った。
(#)実話をもとにした小説らしいので、そこも実話であれば仕方なくはある。書かれていない事実もあるだろうし、書かれたわずかな出来事から著者の人生のすべてがわかるはずもない。
p.s.「ちんぽが入らない」では、検索しても出なかったのでは。
性行痛とか、性行障害とかでは?
また、「うんち」が人間の固形排泄物、「うんこ」は動物の便を意味するように、「ちんぽ」が人間の陰茎のことで、「ちんこ」は動物の陰茎を意味したりするのかな、なんてどうでもいいことを考える契機となる読書だった。