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平山夢明「ヤギより上、猿より下」

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ヤギより上、猿より下ヤギより上、猿より下
平山 夢明

文藝春秋 2016-06-30

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 どうしようもない社会の仕組みの中で、懸命にあがく人々を描く〈イエロートラッシュ〉シリーズ第二弾(☆)。


 

「パンちゃんとサンダル」

 父親の暴力に耐える一家だが、母親が狂気にむしばまれていき…。

 ラスト、におわされる真相が恐ろしくも切ない。なんて哀しい緊急避難だろうか。

 

「婆と輪舞曲」

 娘の行方不明事件から、正気を踏み外した婆に付き合う探偵の〈俺〉。しかし、〈俺〉の身辺でも事件が起きて…。

 狂気を孕んだ人間に対して、いったい何ができるのだろう? 関わりたくない気持ちと、祈るような気持ちの間で振り子のようになりつつ読んだ。

 

「陽気な蠅は二度、蛆を踏む」 

 殺し屋のターゲットは好人物で、しかも…。

 著者の短編作品には、時折この『●殺し』のモチーフが見られる。本書でも、冒頭の一編は逆に『○殺し』テーマともいうべきもので対になるようでもあるが、愛する者のため手を汚す「パンちゃんとサンダル」に対して、明るい未来も何もない本作は強い閉塞感に覆われ、諦念と絶望に彩られている。

 

「ヤギより上、猿より下」

 おばかな醜女は淫売宿に売られていくが、そこで強烈な仲間たちと強く生きていくのであった。

 シリーズ第一弾の「デブ捨て」でも、表題作はどこか牧歌的で、昔話風のムードを持っていたが、本書でもその傾向は健在で、〈いやいや、こんな登場人物ありえないだろ〉と思う間もなく、異様に歪んだ、しかしのんきな世界に引き込まれてしまう。

 悲惨な状況が笑いと表裏一体となった、奇妙な物語を堪能した。

 

 

 第二弾とはいえ、一羽完結形式の短編集なのでもちろん本書単独で読んでもOK!というか、どちらから読んでも、必ず両方読みたくなるはずだけれど!

 暴力、虐待、殺人と忌まわしい出来事がてんこもりでありながら、めくるめく面白さに一気読み必至。しかも、怒りや笑いや悲しみで頭をユッサユサに揺さぶられてしまい、読後感は何故か爽快なのだから、このシリーズはやめられない。

 

 下流層でも激安人生でも、人はやっぱり美しい。

 

 2冊あわせて読むのがオススメ。

(☆)めっちゃ面白い第一弾はこちら。

 

デブを捨てにデブを捨てに
1,000円
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