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これは本格怪談だ!舞城王太郎「淵の王」

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淵の王淵の王
舞城 王太郎

新潮社 2015-05-29


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 思えば、嫌いなレビュアーがこの作家さんを手放しでベタボメしていたので、長らく読まず嫌いをしていたのだった。我ながら、もったいないことをしたと思う。

 本作は、メインの人物が異なる三編の物語から成る。登場人物に相関はないが、人間かそうかもわからない存在は共通して出て来るので、連作ホラーといえる。

 全ては背後霊だか守護霊的だかもわからない霊的な存在から語られる。これは便利だ!一人称でありながら、主役たる人物を三人称のように観察できるのだから。そして、共感しながら他人の人生をつぶさに観察するのはめっぽう面白い。まるで私も霊的な存在となり、守護霊と並んで彼らの愛する人物を間近に眺めているような気分になれる。

 最初の一編こそサイコパスを描くサスペンスタッチだが、次からは紛れもないホラーとなり、怖いということの真髄がさらけ出される。本人も自覚なき謎の行動、いつも同じものが視界をかすめ、忍び寄る恐怖、人の身からは理解できぬあちら側の存在の心理…待ち受ける後味の悪さも含め、これぞ、まさに本物の怪談ではないか。

 最終章は最もエキサイティングで、ハルキ(#ムラカミの方ね)的なスリリングな恋愛ものとなっている。
 哀しいのに感動的なラスト、彼氏の一途な行動と愛が胸を打つこと間違いなしだ。
 最後の物語は全ての謎こそ解けないものの、今までの謎の真相をチラ見せしてくれて、にくいほどキマった演出となっており、引き込まれる。
 私が一番怖かったのは、元夫やその浮気相手、謎の男や呪いの犬よりも、全ての元凶となりながらあっけらかんと笑っていられる彼女である。こういうヒト、心底恐ろしいわ。



 今年読んだ本の中でも、かなり面白い物語だった。ホラー・怪談好き、普通の恋愛小説に飽きてしまった人々に強くおすすめ。


(#)突然いなくなる本命の彼女と、それを執念深く我慢強く捜し求める、ちょっと貞操観念のアレな彼氏+オシャレな会話という構図。

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