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吉村萬壱「臣女」

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臣女臣女
吉村萬壱

徳間書店 2014-12-10


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 非常勤講師で小説家である男は、日に日に巨大化していく妻の面倒をみるが…不穏な空気に満ち満ちた、愛の物語。

 愛の物語、と書いてはみたが、これを〈愛〉と呼んでいいのだろうか少し悩む。ヒトの形すら失いゆく妻を見捨てることを夢想しつつも、毎日餌(としか思えない食事)を与え、下の世話をする夫…もはや異性間の恋愛ではないかもしれないけれど、或る意味それは愛なのだろう、きっと。

 もう誰かが指摘しているとは思うが、巨大化するうちに言葉もたどたどしくなり(知能の幼児化?)鈍重になってゆく妻と、世話をする夫を見ていると、老老介護が連想される。怪物化する妻は、夫の手に負えなくなるほどの〈老い〉の比喩なのでは…? と。垂れ流される糞尿や痰、吐瀉物の描写が多いので、そう思ってしまうのかもしれない。

 夫は(別れたとはいえ)浮気も経験しており、誠実な人間とは言い難いが、変わり果てた妻に辛抱強く付き合う様子から、彼の人間としての芯の強さが見てとれる。
 自ら捨てたはずの愛人に未練があったりと、情けなかったり小人物っぽい描写も多々あるけれど、彼の意志がブレることはない。
 
 やはり、これは夫婦の愛の物語なのだ。だからこそ、あっけなくも思われるラストに悲しみ誘われる。


p.s.メモにタイトルを書いて注文するとき、「このタイトル、なんて読むんですか?」と訊かれ、「おみおんな…じゃないですかね?」と自信なさげに答えたものだが、本文によれば「おみおんな」で良かったようだ。良かった良かった。
 妻の異形ぶりにちょっとだけ、バースト・ゾーンだっけ…あの、巨大化した女の人の逸話を思い出した。だいぶあっちの内容忘れてしまったので、再読しようかなあ。

 

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