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吉村萬壱「ボラード病」

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ボラード病ボラード病
吉村 萬壱

文藝春秋 2014-06-11


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 小学生の恭子は母と二人暮らしで海塚という町に住んでいる。恭子らを覗く隣人、消えゆく友達や教師、ひたひたと謎の満ちて行く先にはいったい何があるのか?!サスペンスフルな社会派小説。

 初めて著者の名作「クチュクチュバーン」を読んだとき、あまりの面白さと機関銃乱射の如く繰り出される奇想の数々に、頭がくらくらした。まごうかたなく天才だ、と思った。人類がいまだ見たことのない世界を、文字にして書き留めてくれる作家がついに現れたのだ、と。あれから何年も経つが、その想いが色あせたり裏切られたりしたことはない。私にとって著者は、毎回新刊が出ると心浮き立つ数少ない作家陣のおひとりなのだ。

 さて、語り手は小学生の女子である。流行り言葉で呼ぶならJSである。彼女が母親と住む海塚という町は、平穏なのにどこか不気味さ漂うただならぬ空気の町である。だが、ヒロインは小学生(*)ゆえ、子供の頭脳では町の秘密を解き明かすことができない。

 積もる謎に読者はあれこれと当たらぬ推理をするわけだが、本作が真に恐ろしいのは、現代日本の閉塞した、先行きの見えぬ取り返しのつかない状況とシンクロしているところだ。海塚は、確かに架空の町である。海塚の住人も、その奇妙なふるまいも、リアルではあるがフィクションだ。だが、この物語を読むとき具体的にではないにせよ、読者は日本のどこかに痛烈に想いを馳せながら読むことになろう。

 本書はありえるかもしれない未来の日本なのだ。

 ヒロインは自分のことを「鈍い」と繰り返し言うのだが、母親を始めとして、大人の思惑を上場のかすかな変化から見抜いてみせるのだから、ブラフだろう。
 子供っぽかったヒロインは、初恋を経て最終的には母を恋敵と見るまでに精神的に成長する。だが、その恋の行きつく先は、死んだ方がましかもしれない辺土なのだ。実らぬ恋を醜い器の内側に燃やし、生きながらえて叫ぶヒロインの生命の焔はとても美しかった。


(*)94p、世界が揺るがされる一言が現れ、度肝を抜かれる。

p.s.著者のツイッターにしばしば登場するうさぎの「うーちゃん」が作中に出てきて楽しかった。し、しかし作中ではうーちゃんが…ッ!


 

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