![]() | 拝み屋郷内 怪談始末 (MF文庫ダ・ヴィンチ) 郷内心瞳 KADOKAWA/メディアファクトリー 2014-05-22 Amazonで詳しく見る |
なんと、〈拝み屋〉を生業としている著者が綴った怪談集! もちろん著者の実体験や依頼者の事件、オーソドックスな定番ネタの怪談から類話すらなき新種の怪談までぎっしり詰まっているゴージャスな怪談集だ。
著者の作品は「お不動さん」で拝読していたものの、そちらはフォークロア調だったので本書も似たテイストかと予想していたら、なんと「「超」怖い話(*1)」と「新耳袋(*2)」のいいとこどりブレンド!! これほど引き出しのある方だったとは…怪談ジャンキーとしてうれしいサプライズだ。
お気に入りに付箋を貼りながら読んでいたら膨大な数になってしまったので、絞りに絞って一言感想を列挙しておくに留める。
「真夜中の電話」これぞ拝み屋さんならではのお話、本人の体験ゆえ異様なまでの臨場感に手に汗握る。
「鳥影」海外のファンタシィ「ワールズ・エンド」のモレフトみたいでカッチョいい怪異!
「桐島加奈江」シリーズもの。最初こそは夢オチかと思ったけれど、怒涛の展開で引き込まれる。私としては、そこまで甘美な思い出があったら一度会話してみては…と思わないでもないのだけれど、そんな気も起らぬほどにおぞましいのだろう。
「風ノ助」ほのかに怖いけど、とても可愛い。
「境界線の欠落のある風景」これぞ幻視者のビジョン。憧れるなあ。
私も一応は怪談界の末席に連なるモノゆえ、もう著者には嫉妬しか感じない。なにしろ、ご自身が見、聞き、体感することができうるのだから!
盲人象を評すの如く、何もワカラヌ私は他人の経験を事細かに聞き、自らは知覚できぬモノを想像で文字化するしかないのである。
しかも知覚可能なばかりか、祓うこともおできになるとは…ああ、うらやましい。著者にはどのような世界が視えるのであろうな。きっとモンシロチョウに紫外線が見えているように、我のような凡百のヒト科とは異なる世界が拓けているに違いない。
拝み屋さんを取材する怪談は多々あれど、ご本人がものす怪談は初なのではないか(*3)。その意味でも、本書はプレシャスな一冊といえよう。
(*1)竹書房の「「超」怖い話」シリーズ。体験者へのインタビュー形式が異様な臨場感を生み出した。
(*2)現在は角川文庫から発行されている怪談シリーズ。怪異を淡々と記録していくスタイリッシュな筆致で人気が高い。
(*3)霊感作家としては加門七海、稲川淳二が有名だが、彼らは本職・作家もしくはタレントであり、拝み屋として生計を立ててはいないはず。
宗教的職業者の著書に「怪談和尚」があるが、そちらは仏教的な説法・人情譚の紹介が多く、エンターテインメントを強く意識したらしき本書とは性質が異なるかも。