![]() | 別海から来た女――木嶋佳苗 悪魔祓いの百日裁判 佐野 眞一 講談社 2012-05-25 Amazonで詳しく見る |
連続結婚詐欺殺人の裁判記録&犯人のプロフィールを先祖までさかのぼって調べた本。
私は木嶋事件にはたいして関心を持てなかったのだが、北原みのり「毒婦。」を成り行きから読んだ。前掲書の中で、男目線のルポとして批判されていた本書を読まないとバランスが良くないのかな、そんな思い込みで読んでみたのだが…。
本書の中で、著者は女目線のルポ(「毒婦。」のことか?)を、〈本質をとらえていない〉というように暗に批判している。
相互いに〈自分こそが木嶋香苗の本質に迫った、相手は表層のみの薄っぺらな観察で勘違いしている〉と主張しているように読めるのだが、木嶋の本質とは、果たしてどのようなものなのか、両書を読み終えても見えては来なかった。
一般的にノンフィクションでは重要視されるはずの犯人の手記が、ざっくり割愛され、言及のみにとどめられているのも両書物に共通している。
以上、本書と「毒婦。」を軽く比べてはみたけれど、本書は確かに取材の細かさでは前掲書の上を行っていた(とはいえ、前掲書は裁判ルポに限定した性格の本ゆえ、同じ事件をテーマにしていても単純に比較できるものではない)。
ただ、被害者遺族への配慮無き特攻や、犯人の祖父にまで犯行の遠因を追い求めたり、著者のファンタジー(東京幻想)の結論ありきの構成など、読者として首をかしげる部分も多い。
著者が木嶋の出て来る悪夢を見るシーンなどは、その最たるものだろう。それだけこの事件に思い入れを持っていたことの証拠かもしれないが、ここはあとがきで軽く触れるか、省略しても良かったように思えた。