![]() | ハピネス 桐野 夏生 光文社 2013-02-07 Amazonで詳しく見る |
見晴らしの良いタワマン(タワーマンション)に住む有紗は、ママ友たちとの虚飾たっぷりな付き合いにくたびれていた。そこに、別居中の夫との関係も雲行き怪しくなってきて…家庭サスペンス。
現実を認識できないヒロインがラスト自らの足で大地を踏みしめるまでの物語である。
あらら、ラストあっさり。ママ友の不倫ももっとドロドロすると思うのだが、ヒロインは恋の傍観者なのですんなり経過してしまう(いや、炎上するよりはいいことなんだろうけど…)。
ヒロイン・有紗がとにかくアンビバレンツなキャラクターで、冒頭で〈このタワマンに住むのが夢だったの誇りなの!!!〉みたいなことを言っておきながら、ダンナと離婚か否かを話し合うシーンでは、〈ここに住みたいって言ったのはアナタ!〉などと言っていて、アンタこそ記憶喪失かと思った。
我が子に久々に再会するシーンにしても、こんなもんなの??と驚くほどにあっさり。ママ友からもKYと言われる有紗だから仕方ないのかもしれないが、もう少し人間らしい心の動きはないのだろうかと首をかしげてしまった。
そんなヒロインの成長モノであるとはいえ、彼女の内面や人格がグラグラするものだから、物語に一本通った芯を感じることができなかった。
ラストも意外で、これはないでしょう…的な。万事丸く収まったように見えるけれども、それで果たしていいのか、と。
それでも、有紗みたいなフラフラ自分のアイデンティティが定まらない女性はいるかもしれない。一番フィクション臭がするのは美雨ママか。
ストーリーにはいまいち惹かれない本作であったが、女児のハッとするほどの鋭さや、空気を読むところなど子供の描写はさすがと思うものがあり、著者の母親的眼力を思わず想像した。