![]() | 真実への盗聴 朱野 帰子 講談社 2012-08-03 Amazonで詳しく見る |
幼いころ重病で、遺伝子治療を受けた小春。その後遺症で彼女は聞こえすぎる耳を持つようになっていた。求職中の小春は、その耳を買われてスパイとして雇われるが、その会社は長寿遺伝子導入薬を大々的に売り出そうとしていた…近未来社会派サスペンス。
高齢化社会の解決策といえば、筒井康隆「銀齢の果て」(#)のように、誰しもブラッディで乱暴なな策を想像することと思う。しかし、この作品は180度回転して、アッと驚く解決策(しかし、若者にしわ寄せがいくのだが…)を提示してみせる。倫理的問題からも現実には不可能ではあろうが、その鮮やかな発想には驚かされた。
そして、朱野作品といえばけなげなヒロインと、味のある脇役。不平不満もこぼさずに、ひたすら妻を支えぬく晶午など、カッコ良すぎる。
脇役がみなそれぞれの正義を持っているから、本書に本当の意味での悪役はいない。そこがカタルシスをそぐことにもなったが、物語に深みとリアルな苦みを与えていると感じた。
(#)老いの哀しみ苦しみやるせなさを格闘に込めた良作。
銀齢の果て (新潮文庫)/新潮社
