怪談界隈でこの作家を知らなければニワカだと言い切れるほどの、トップシーンをひた走る作家である。そのリーダビリティは他の追随を許さず、ありふれた(というか、しばしば聞くタイプの)怪異であっても、黒木あるじの筆にかかれば思わず新味を覚えるほどだ。
これが褒め殺しでない証拠に、拙作も掲載されているアンソロジー(四十九夜など)を体験者に献本すると、必ずや《この、黒木あるじという人の作品が良かった》と言われる。そんな彼我の差には茫然とするばかりであるが、とりあえず私的お気に入りを下記に。怪談入門者も怪談ジャンキーをも同時に魅了する怪異が本書にもまた、健在なのである。
シャツ持ってきて/怪異自体はありがちなのだが、語りにすごみがあればここまで鮮烈な印象をもたらせるのかと、感心しきり。
嬉しそうな声/ワケを知っていそうな、上司もちょっと怖いかも。
五階/とても気になる終わり方…!
あげる/こんな、不条理すぎる怪談こそが真に怖いのかもしれない。
新宿駅の内臓/見てみたいような、見てみたくないような…印象的すぎるワンシーン。