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小川洋子「口笛の上手な白雪姫」

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口笛の上手な白雪姫 (幻冬舎単行本)口笛の上手な白雪姫 (幻冬舎単行本)
小川洋子

幻冬舎 2018-01-24


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 リアルなのに幻想的でありえない短編集。


 本書の前半は著者お得意の、五感に訴えかける描写が冴えていてすばらしい。


「先回りローバ」
 親の嘘に傷つけられた少年は、先回りローバなる不可思議な存在に癒やされていく。
 先回りローバのサイズ感がいまひとつ想像できないが、これはわざとぼかした表現なので、それで良いのだろう。
 一種の毒親育ちとイマジナリー・フレンドの物語であり、良かれと思った嘘が、子のためと偽装しながらその本質は親の見栄しかないところなど、非常にリアル。


「亡き王女のための刺繍」
 うまく表現できないのだが、この物語を読むと、まさに文学だなあ…と思う。けして描写がくどくどしくはないのに、その店へ足を踏み入れたかのように、情景が目に浮かんでくるのだから。孤独だが誇り高い職人、そして彼女の技量を賞賛しつつも複雑な感情を抱くヒロインの心情が、行間からあふれるほどに立ち上ってくる。


「かわいそうなこと」
 図鑑からここまで想像の翼ひろがるのかと驚嘆。


 ここまでは楽しんでいたのだが、後半は妄想の物語が多くてどこか不安な心持ちにさせられる。


 子を喪った母の救い「一つの歌を分け合う」は直視にたえないほどいたましく、迷子と芸術の出会い「乳歯」で気分は若干盛り返すものの、続く「仮名の作家」「盲腸線の秘密」はいずれも妄想とその破綻(前者は孤独で無敵、後者は秘密を共有する違いはあるが)を描いて読み心地は陰鬱であった。


 ラスト、表題作は妄想を秘めた孤独な女性が主役だが、共演者たる赤ん坊の生命の明るさが読後感を良くしていた。


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