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山白朝子「私の頭が正常であったなら」

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私の頭が正常であったなら (幽BOOKS)私の頭が正常であったなら (幽BOOKS)
山白 朝子

KADOKAWA 2018-02-10


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  喪失をテーマにした短編集とのこと、なるほど、どの物語にも死が色濃くまとわりつく(正確には生死の判断がつかない一篇があるけれど、社会的には死亡したも同然だろう)。取り返しのつかない喪失といえば死、か。


「世界で一番、みじかい小説」結婚三年目の夫婦の住まいに、突如中年男の幽霊が現れる。怯える夫に対し、妻は冷静に科学の目で対処しようとするが…。
 真相は胸糞悪いけれども、妻がクールビューティーでカッコ良かった。憂いを帯びていれのは、お●●が●いているとき、というのもイカしてる。


「首なし鶏、夜をゆく」同級生の少女の飼う鶏には、首がなかった。叔母に切り落とされたのだというが…。
 キッチュなモチーフながら、せつなさあふれる作品。もっとおぞましい(?)結末を予想していたが、そうならずにほっとしたような、物足りないような。


「酩酊SF」ある種の超能力で金儲け。順風満帆のはずが、悲劇が襲う。
 コミカルな始まりからは予想もつかない、ビターでダークな終わりを迎える物語。だが、ミステリーとしてこの短編を見たとき、すべての手がかりは早いうちから読者に示されていたのだなあと思った。


「布団の中の宇宙」スランプの作家が立ち直った理由は、中古品?!
 創作にさ携わる者なら、誰しもが欲しくなる逸品だろう。誰がどう使ったかわからぬ、中古品に対する不安が生々しく描写されている。


「子どもを沈める」同級生が連続して我が子を殺めた。そんな折、ヒロインのもとに一通の手紙が届き…。
 過去が忘れたころに首をもたげる…強烈な復讐物語。はねのけたくなる呪いに打ち勝とうともがくヒロインが健気だ。


「トランシーバー」震災で妻と息子を失った主人公に起きる、ある奇跡。

 心温まるファンタジーだが、先日読んだノンフィクション「魂でもいいからそばにいて」によると、このような事象は珍しくないそうだ。


 表題作は、救えなかった人が救いたい願いを強めるあまり、奇跡を起こす。

 この物語の前半は、まっこと恐ろしい話である。その恐ろしさの核となるものが、DVと殺人という、日常にリアルにありふれた出来事であるのがさらに凄惨さを増す。ただ、幼きものを思う母の心がとても美しく、せつないながらも読後感はほんのりと温かいのだった。


「おやすみなさい子どもたち」事故死したはずの少女は、天使に出会う。
 今までの収録作とは毛色が違い(この作品にも死がまといついているけれど)、少し宗教的な設定。あっさりとしているけれどきれいな物語で、さわやかな読後感を演出してくれた。


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