![]() | ヒトでなし 金剛界の章 京極 夏彦 新潮社 2015-10-22 Amazonで詳しく見る |
娘を殺されるなど次々と過酷な目に遭い、妻とも別れて彷徨う或る男。ところが、通りすがりに自殺未遂の女に声をかけたことから、男の運命は大きく転がり出していく…。
鬱々とした独白が続く最初こそとっつきが悪かったけれど、ノってくればこの厚さでも一気読みできるパワーとエネルギーのある物語だった。
物事がとんとん拍子に運ぶ様子は、まるで昔話のわらしべ長者のよう。
金剛界の章、ということは続編もあるのだろう。続編では、この摩訶不思議な物語がどう展開していくのか見守りたい。
ここから少し内容に触れるので、未読の人は離脱推奨。
そしてクライマックス、男は選択を迫られる…と思いきや、彼はもはや、選択するかどうかなどという次元にはいないことが知れる。
仇が目の前にいて、普通の人間ならば、憎くないわけがない。彼の流す涙は亡き娘を想ってのことであろうから、人間性を完全に失ったわけでもないだろうのに…彼の行動は、全くもって理解不能、共感不能だ。
常人には、けして理解できない。だからこそ、「ヒトでなし」だったのだと、読後タイトルが身に染みた。