ようやくこの怪作の感想が書ける。先月に読み終えてはいたものの、あまりに濃厚な変態残酷世界(でも、そこはかとなくユーモラス)に打ちのめされ、なかなか手がつけられなかったのだ。
![]() | 虚ろまんてぃっく 吉村 萬壱 文藝春秋 2015-09-10 Amazonで詳しく見る |
本書は、2005年から2015年までに発表された短編を収録しており、味わい深い奇妙な挿画はなんと著者自身によるもの。
まず「行列」だが、両脇が断崖となった細い道を全裸で進まなければならない人々を描いている。快不快のみを行動原理とする、愚かしくも哀れな主人公は、与えられた条件下で死ぬまで歩んでいかねばならない我々を象徴しているかのようだ。
人生は夏休みの宿題と言い切る「夏の友」、コミカルなサイレントムービーと思いきやラスト豹変を見せ、読者を無生物に共感させてみせる表題作、変態極まるエロス「家族ゼリー」など、一癖も二癖もある濃厚な作品が続く。
理解困難な世界が広がる「コップ2030」は、「クチュクチュバーン」の壮大な世界を想起させてオールドファンには懐かしかった。
その後、著者自身をモデルとした「樟脳風味枯木汁」は、もてない男の発想の転換が見事で、およそ常人には着想も実行もできない、すさまじい行為が描かれる。
「大穴(ダイアナ)」は変態90%カッコつけ10%の恋愛物語で、著者twitterで人気の「うーちゃん」も登場し、リアルと創作が頭の中でミックスされる感覚が味わえる。
とても短いが切れ味鋭い「希望」、息子の精神と父の脳力のせめぎあう「歯車の音」、救いも何もない虐待の果てを描く「大きな助け」など、読者にパンチのラッシュをかける作品ばかりである。
お口直しのデザートには、ユーモラスな「あとがき」が待っている。
ぜひあなたも、比類なき奇妙な世界を堪能してはいかがだろうか?