![]() | 鍵の掛かった男 有栖川 有栖 幻冬舎 2015-10-08 Amazonで詳しく見る |
ベテラン人気作家から、知人の死の謎を調べてほしいと頼まれたアリスは、仕事の忙しい火村に先んじて、単独捜査を開始するが…。
うーん、どうなんだろう。しょっぱなに、アリスがこんなアバウトな依頼を受ける理由がわからない。暇だからか、知的好奇心からなのか。一読者としては、よく知らない人(といっても、これから彼のことを根掘り葉掘り調べるのだが)の死に何ら興味を抱けない。
アリスの依頼に火村が二つ返事なのも、同じ理由で謎。要するに、ミステリ的に見て、〈謎〉に魅力が無い。
描き下ろしで500pを越えるボリュームであり、丁寧な地域・状況描写などされているわけなのだが、ネタ的にはコレ短編、せいぜい中編向きの真相ではなかろうか。ソーの演奏者も(そういう楽器を無学にして知らなかったため薀蓄は興味深かったが)、ストーリー上要るかと言ったら要らないように思える。
レッドへリングとしてなのか、登場人物はぞろぞろ出て来るのだが、死者にしろその遺族にしろベテラン女流作家にしろ、魅力的かつ印象的な人物といえば一人もいない。
そして痛いのが、脂ののってきた作家アリスは現実味や存在感を増しているものの、火村が急に二次元ライクなキャラになってきてしまったことだ。女は火村を見るとカッコいいとときめき、本人はクール。昔と変わらない設定のはずなのに、何故、本書の火村は書き割りのように思えてしまったのだろう。そこは私にもわからない。
真相は感動的な味付けではあるけれど、とにかく前科のある人が軽率すぎてまったく共感できない。決心をした恋人にしても、どうにも身勝手にしか思えない。真犯人の動機も、探偵の口からサラリと語られるだけでピンとこない(理解不能なサイコパスということか??)。
ここは価値観の問題と思うが、そんな理由で前半は読むのが苦痛だったし、後半もあまり楽しめなかった。
長年火村ファンだった私であるが、このシリーズを読もうか読むまいかと悩みはじめている。個々の事件の裏側を流れる、火村の過去の秘密。それは延々とほのめかされるだけで、永遠に明かされないのではないか…そんな気がしてきたのだ。まあ、火村の過去はシリーズ最終巻で扱うのかもしれないが、それにしても引っ張りすぎではないかと思う。
そして、ここは個人的好みによるのだけれど、再三繰り返される喫煙シーン。火村といえば喫煙者かつ愛煙家で(緩慢なる自殺とかいうケチ臭い理由で吸っているのではなさそう、彼の美学的に)、アリスとの打ち合わせも喫煙席、話し合いもまず灰皿、と話の興をそがれることハンパない。私も若いころ(20代まで)は真横でタバコをスパスパされても平気だったが、アラフォーの今や、タバコの煙が近くにたゆたおうものなら、数時間後に激しい目・皮膚のかゆみと発赤、吐き気腹痛咳痰鼻づまりでのたうち苦しむ体質になってしまった。
だから、火村のタバコ描写を苦々しいとしか思えないんだよなあ…禁煙してよ火村センセイ。
p.s.本書は雑誌連載をまとめたものではなく、書き下ろしとのこと。そのせいか、ミスプリがやや目立った。